「船の上でも地上と同じようにインターネットを使いたい」──そんな願いを叶えるのが、スペースXが提供する スターリンク船舶プラン(Starlink Maritime) です。
従来の船舶通信は、速度が遅く料金も高額で、多くの船員や乗客を悩ませてきました。しかしスターリンクなら、下り最大250Mbpsの高速通信を海の上でも利用でき、クルーズ船、漁業船、貨物船、さらには災害救援船でも活躍しています。
この記事では、スターリンク船舶プランの 最新料金・初期費用・導入手順・メリットや導入事例 をわかりやすく解説します。導入を検討している事業者はもちろん、「海上でも本当に快適にネットが使えるの?」と気になる方も、この記事を読めばスターリンクの実力が理解できるはずです。
- スターリンクとは?衛星インターネットの仕組み
- 船舶向けプラン「Starlink Maritime」とは
- 個人・法人・船舶プランの違い
- 海上利用に強いアンテナ性能
- 船舶通信で求められる安定性とカバー範囲
- 初期導入費用(専用アンテナ・設置機器)
- 月額料金の目安とデータ容量の考え方
- 船舶プランと個人・法人プランの料金比較
- 通信速度と料金バランスの検証
- オプションサービス(固定IP・VPN・複数端末対応)
- クルーズ船での快適なインターネット環境
- 漁船・貨物船での業務効率化
- 災害時や緊急時の通信確保
- 船員の福利厚生・エンタメ利用の充実
- 従来の船舶衛星通信(VSAT)との比較
- 申し込み〜設置完了まで)
- 船舶用アンテナの設置条件
- 電源・配線などの準備事項
- 海上特有の電波環境での注意点
- 導入時に活用できる補助金や助成制度
- クルーズ船での導入事例と乗客の反応
- 漁業船での運用と収益改善効果
- 貨物船での通信改善と安全性向上
- 災害救援船での活用事例
- 導入後にわかったメリットとデメリット
- まとめ
スターリンクとは?衛星インターネットの仕組み
スターリンク(Starlink)は、イーロン・マスク率いるスペースXが提供する衛星インターネットサービスです。
従来の衛星通信と大きく異なるのは、地球低軌道(LEO)に数千基の小型衛星を配置し、地球全体をカバーするネットワークを構築している点です。
これにより、光回線が引けない地域や海上でも、高速かつ比較的低遅延なインターネットが利用できます。
従来の静止軌道衛星通信(GEO)は、地上から約36,000kmの距離にあるため、遅延が600ms以上発生することが多く、動画視聴やオンライン会議などリアルタイム性を求められる用途には不向きでした。
一方、スターリンクは約550kmという低軌道に配置されているため、遅延は平均30〜50ms程度。光回線やモバイル回線に近い感覚で利用できるのが特徴です。
さらに、スターリンクはアンテナを自動的に最適な衛星に向けて通信を行うため、ユーザーは難しい操作をする必要がありません。
船舶上でも設置して電源を入れるだけで、安定したインターネットが利用可能になります。
この技術により、船舶や離島、僻地といった通信が届きにくい場所でもインターネット接続が可能になるという革新的なサービスが実現しました。
まさに「海の上でもオフィスと同じように仕事ができる時代」を切り開いているのがスターリンクです。
船舶向けプラン「Starlink Maritime」とは
船舶向けの専用サービスが「Starlink Maritime(スターリンク・マリタイム)」です。
これは、海上での安定したインターネット接続を目的に設計されたプランで、2022年に提供が開始され、2025年現在は世界中の多くの船舶に導入が進んでいます。
最大の特徴は、海上でも高速かつ低遅延なインターネットを提供できる点です。従来、船舶通信はVSAT(超小型地球局)が主流でしたが、料金が高額で通信速度も数Mbps程度と限られていました。
スターリンク・マリタイムは、下り最大250Mbps、上り20〜30Mbps程度の速度が期待でき、オンライン会議や動画視聴、クラウドシステム利用も可能なレベルです。
また、アンテナは船舶用に耐久性が強化されており、強風や波の揺れに対応する自動追尾システムを搭載。常に最適な衛星に接続し続ける仕組みになっています。
これにより、大型クルーズ船から小型漁船まで幅広い船舶で利用可能です。
料金体系は個人・法人向けプランと比べて高額ですが、従来のVSATに比べればコストパフォーマンスが圧倒的に優れています。
特に「クルーや乗客へのインターネット提供」を重要視する業界では、急速に普及が進んでいます。
個人・法人・船舶プランの違い
スターリンクには、個人向け(Residential)、法人向け(Business)、そして船舶向け(Maritime)の3つの主要プランがあります。それぞれの違いを整理すると以下のとおりです。
項目 | 個人プラン | 法人プラン | 船舶プラン |
---|---|---|---|
月額料金 | 約12,300円 | 約34,000円 | 約350,000円〜 |
通信速度 | 100〜250Mbps | 100〜250Mbps(優先帯域あり) | 100〜250Mbps(海上対応) |
データ容量 | 基本無制限(混雑時制限あり) | 優先データあり | 優先データあり |
アンテナ | 標準タイプ | 高性能アンテナ | 船舶用耐久アンテナ |
サポート | 標準 | 法人サポート | 専用サポート |
大きな違いは料金とアンテナ性能です。船舶プランは月額料金が高いものの、海上という特殊環境に耐えられる専用設計のアンテナを使用します。
また、法人プランと同様に優先帯域が確保されており、混雑時でも安定した通信を維持できます。
つまり、船舶プランは「海上での業務利用や乗客サービスのために設計された特別仕様」と考えるとわかりやすいでしょう。
海上利用に強いアンテナ性能
船舶での通信最大の課題は「揺れ」と「過酷な気象条件」です。スターリンク・マリタイムで提供されるアンテナは、この課題に対応するために開発された専用モデルです。
特徴は以下のとおりです。
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自動追尾機能:船が揺れても常に衛星を追尾して接続を維持
-
耐久性:防水・防塩加工済みで、長期間の海上運用に対応
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高出力性能:悪天候時でも通信が切れにくい設計
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複数アンテナ接続可能:大型船では2基以上設置し、冗長化可能
従来のVSATアンテナは直径1m以上で大掛かりな設置が必要でしたが、スターリンクの船舶用アンテナはコンパクトで設置が比較的容易です。特に中小規模の漁船や作業船でも導入可能な点は大きなメリットです。
船舶通信で求められる安定性とカバー範囲
海上では、通信が途切れることが安全面に直結します。航行情報の共有、気象データの受信、緊急連絡など、船舶では「安定した通信」が生命線となります。
スターリンク・マリタイムは、すでに主要な航路をほぼカバーしており、大西洋や太平洋でも利用可能です。
ただし、北極や南極といった極地では、まだ衛星カバー範囲が不十分な場合があります。
しかし、スペースXは今後も衛星を追加打ち上げる計画を進めており、2027年頃には地球全域の完全カバーを目指していると発表しています。
これにより、世界中の海を航行する船舶でも、ほぼ切れ目のない通信環境が実現する見込みです。
初期導入費用(専用アンテナ・設置機器)
スターリンク船舶プランを導入する際に最初に必要になるのが、専用アンテナと関連機器の初期費用です。個人向けや法人向けのスターリンクアンテナは比較的安価(数万円〜十数万円)ですが、船舶プラン用は海上環境に耐えられる特殊仕様のため、価格も大きく異なります。
2025年時点の参考価格では、スターリンク・マリタイム専用アンテナキットが約700,000円〜1,200,000円程度とされています。このキットには以下が含まれます。
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耐久性強化アンテナ(防水・防塩加工済み)
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アンテナマウント(船舶への固定用)
-
ルーター・電源ケーブル一式
-
設置マニュアル
設置作業は比較的簡単ですが、船舶特有の事情(揺れ・潮風・電源配線など)があるため、専門業者に依頼するケースが多いです。業者に依頼した場合の設置工賃は10万円〜30万円程度が目安となります。
特に大型船やクルーズ船では、複数アンテナを設置するためさらに費用がかかります。
また、船舶用の専用機材は在庫が限られるため、導入までに数週間〜数か月待ちとなることもあります。急ぎで導入する場合は、代理店を通じた早期手配が必要です。
つまり、初期導入費用は最低でも80万円程度〜、場合によっては100万円を超える投資となりますが、従来のVSAT設備(数百万円〜数千万円)と比較すれば、コストは大幅に抑えられると言えるでしょう。
月額料金の目安とデータ容量の考え方
スターリンク・マリタイムの月額料金は、個人プランや法人プランと比較すると桁違いに高額です。2025年時点の目安は以下のとおりです。
-
月額料金:約350,000円〜500,000円(税別)
この料金は一見すると高額に見えますが、従来の船舶通信(VSAT)と比べると圧倒的に安価です。
VSATでは月額100万円を超える契約も珍しくなく、それでいて通信速度は数Mbpsにとどまるのが一般的でした。
スターリンクはその1/3〜1/5の料金で、速度は数十倍という性能を発揮するため、実質的には「通信革命」とも言えます。
また、スターリンク船舶プランでは「Priority Data(優先データ)」が用意されています。
これは一定容量まで高速通信が保証される仕組みで、容量を超えると速度制御がかかる場合があります。
一般的に、月間1TB〜5TBのデータ利用が含まれることが多く、これはクルーや乗客が日常的に動画視聴やSNSを楽しめるレベルに相当します。
つまり、船舶プランは高額であるものの、従来比で見れば非常にコストパフォーマンスが高く、**「海上で都市部と同じようにインターネットを使える」**という大きなメリットを提供しています。
船舶プランと個人・法人プランの料金比較
スターリンク船舶プランの料金を理解するために、個人・法人プランとの比較を整理してみましょう。
プラン | 月額料金 | 初期費用 | 特徴 |
---|---|---|---|
個人向け(Residential) | 約12,300円 | 約70,000円 | 自宅用、固定利用が前提 |
法人向け(Business) | 約34,000円 | 約300,000円 | 優先帯域、法人サポート付 |
船舶向け(Maritime) | 約350,000円〜 | 約800,000円〜1,200,000円 | 船舶専用アンテナ、耐久仕様 |
この比較からわかるように、船舶プランは他のプランと比べて圧倒的に高額です。しかし、船舶用の通信市場ではむしろ「破格の安さ」と言えるレベルです。
VSAT通信と比べると、同等のサービスを10分の1以下のコストで利用できるため、多くの船舶運営会社が導入を進めています。
また、個人プランや法人プランを「無理やり船上で利用する」ケースもありますが、これは規約上禁止されている場合があり、接続が不安定になる可能性もあるためおすすめできません。船舶利用は必ず専用プランで契約するのがベストです。
通信速度と料金バランスの検証
スターリンク・マリタイムの通信速度は、下り最大250Mbps、上り20〜30Mbpsが目安です。
この性能は、従来の船舶通信と比較すると圧倒的に優れています。VSATの場合、下り2〜5Mbps、上り1Mbps程度が一般的で、動画視聴やビデオ会議はほぼ不可能でした。
一方、スターリンクでは乗客数百人規模のクルーズ船でも動画配信やSNS利用が可能になるなど、船舶通信の常識を覆すレベルの快適さを実現しています。
月額料金35万円〜50万円は決して安くはありませんが、業務効率化や乗客サービス向上による効果を考えると、十分に投資価値があります。
特にクルーズ業界では、インターネット環境の質が顧客満足度に直結するため、料金以上のリターンを期待できると評価されています。
オプションサービス(固定IP・VPN・複数端末対応)
船舶プランでも法人プラン同様に、業務用途に必要なオプションサービスが利用可能です。
-
固定IPアドレス
船上から地上拠点へ安定的にリモート接続する際に必須。料金は代理店や契約形態により異なります。 -
VPN接続
企業ネットワークとの安全な通信を実現。VPNルーターを導入することで構築可能です。 -
複数端末対応
船舶プランでは1台のアンテナで数百台の端末接続が可能。クルーズ船や調査船でも問題なく利用できます。 -
冗長化(複数アンテナ設置)
大型船舶では2基以上のアンテナを設置し、切り替えや帯域強化を行うケースが増えています。
オプションにかかる費用は状況によって異なるため、契約前に代理店へ確認することが推奨されます。
クルーズ船での快適なインターネット環境
クルーズ旅行では、数日から数週間、海の上で過ごすことになります。その中で多くの乗客が求めるのが「快適なインターネット環境」です。
従来のクルーズ船ではVSATを使った通信が主流でしたが、速度は数Mbps程度と非常に遅く、SNS更新や動画視聴はほぼ不可能。
しかも料金は1日数千円と高額で、乗客の不満につながるケースも少なくありませんでした。
そこで注目されているのがスターリンク・マリタイムです。下り最大250Mbpsという高速通信により、クルーズ船上でもYouTubeやNetflixを視聴でき、SNS投稿もスムーズ。
さらにZoomやTeamsといったビデオ会議も問題なく利用できるため、リモートワークを続けるビジネスパーソンにとっても非常にありがたい環境となります。
多くのクルーズ会社はすでにスターリンク導入を始めており、「船旅でも地上と同じようにインターネットが使える」という強力なセールスポイントを打ち出しています。
これにより、顧客満足度の向上やリピーター獲得につながることは間違いありません。
漁船・貨物船での業務効率化
漁船や貨物船では、従来インターネット環境が十分に整備されておらず、陸上との連絡手段は衛星電話や無線が中心でした。そのため、データ共有や情報更新に大きな遅れが生じることが多かったのです。
スターリンク・マリタイムを導入することで、リアルタイムに市場データや気象情報を取得でき、効率的な航行や漁業活動が可能になります。たとえば漁業の場合、水揚げした魚の出荷先や価格情報を即座に確認できるため、売上の最大化につながると期待されています。
また貨物船では、積荷の状況をセンサーで監視し、クラウド上にデータを送信するIoTシステムの導入が進んでいます。スターリンクを利用することで、輸送の透明性と安全性を大幅に向上できるのです。
つまりスターリンクは、漁業・物流といった産業における「デジタル化の推進役」として大きな役割を果たす存在になっています。
災害時や緊急時の通信確保
海上での通信は、災害や緊急時にこそ真価を発揮します。船舶は地震や津波、台風といった自然災害の影響を直接受けやすく、緊急時には陸上との連絡が命綱となります。
しかし従来の通信では、基地局が被災すると通信不能になり、孤立するケースがありました。
スターリンクは、地上インフラに依存せず衛星を介して直接通信するため、災害時でも比較的安定した通信が確保できるのが強みです。実際に、2024年の能登半島地震や各国の洪水災害では、スターリンクが救助船や支援船で活用され、被災地と本部を結ぶ重要な通信手段となりました。
また、医療船や救援物資輸送船にとっても、インターネット接続があれば遠隔診療や物資管理システムの運用が可能となり、支援活動の効率化につながります。
スターリンクはまさに、災害時の「命を守るインフラ」として注目されているのです。
船員の福利厚生・エンタメ利用の充実
長期間の航海に従事する船員にとって、陸上と同じようにインターネットを利用できる環境は、大きなストレス軽減につながります。
従来の通信環境では、メールやテキストメッセージがやっと送れる程度で、家族や友人とのビデオ通話は夢のようなものでした。
スターリンクを導入することで、船員は海上でも家族とリアルタイムにビデオ通話ができ、SNSや動画配信サービスで娯楽を楽しめます。
これにより、船員のモチベーション維持や離職防止に直結する効果が期待されます。
また、若い世代の船員確保にも有効です。「海上でもネットが快適に使える」という環境は、船員不足に悩む業界にとって強力なアピールポイントになります。福利厚生の一環としてスターリンクを導入する企業が増えているのも納得です。
従来の船舶衛星通信(VSAT)との比較
最後に、従来の船舶衛星通信(VSAT)とスターリンクを比較してみましょう。
項目 | VSAT | スターリンク・マリタイム |
---|---|---|
月額料金 | 約100万円〜300万円 | 約35万円〜50万円 |
通信速度 | 数Mbps | 100〜250Mbps |
遅延 | 600ms以上 | 30〜50ms |
初期費用 | 数百万円〜数千万円 | 約80万円〜120万円 |
サービス範囲 | 海域限定あり | 世界の主要海域をカバー |
この比較から明らかなように、スターリンクはコスト・性能の両面で圧倒的に優位です。
VSATは長年の実績があるため完全に置き換わるわけではありませんが、クルーズ業界や物流業界ではすでにスターリンクが主流になりつつあります。
特に「低コストで高速通信を実現できる」という点は、今後の船舶通信のスタンダードを大きく変える可能性があります。
申し込み〜設置完了まで)
スターリンク船舶プランの導入は、個人プランのように簡単にWebから注文できるわけではなく、法人契約・専用ルートでの申し込みが必要になります。
流れを整理すると以下の通りです。
-
問い合わせ・見積もり依頼
公式サイトまたは販売代理店を通じて「Maritimeプラン」を希望する旨を伝えます。船舶の種類、利用人数、利用目的などをヒアリングされます。 -
契約条件の確認と見積取得
月額料金、初期費用、オプション(固定IPなど)、アンテナ台数を決定します。複数船で導入する場合はボリュームディスカウントが適用されることもあります。 -
契約手続き
会社情報や船舶情報を提出し、法人契約を締結します。支払いはクレジットカードまたは請求書払いが可能です。 -
機材の発注・配送
専用アンテナキットが発送されます。納期は在庫状況によりますが、数週間〜数か月かかることもあります。 -
設置作業
船舶にアンテナを設置し、電源・ネットワークを接続します。設置後は専用アプリで簡単な初期設定を行えば通信開始可能です。
このように、導入プロセス自体はシンプルですが、海上特有の設置環境や契約条件があるため、代理店のサポートを受けながら進めるのが安心です。
船舶用アンテナの設置条件
スターリンク船舶用アンテナは、自動追尾機能を持っているとはいえ、設置環境が通信の安定性に大きく影響します。設置条件としては以下が重要です。
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空が広く見える場所
アンテナは常に衛星を探すため、建造物やマストなどの遮蔽物があると接続が途切れやすくなります。 -
揺れへの対応
船舶用アンテナは船体の揺れを自動補正できますが、設置は安定した土台が必要です。専用マウントや架台を用いるのが一般的です。 -
防水・防塩対策
アンテナ自体は防水仕様ですが、配線部分は塩害や湿気の影響を受けやすいため、保護カバーや防水加工を行うことが推奨されます。 -
複数アンテナの設置
大型船では死角を避けるために2基以上設置するケースもあります。冗長化にもつながるため、安全性が高まります。
適切な設置を行えば、航行中もほとんど切断することなく安定した通信を維持できます。
電源・配線などの準備事項
スターリンク船舶用アンテナの運用には、十分な電源と適切な配線が必要です。
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電源要件
船舶用アンテナは高出力で動作するため、AC100V/220V電源が必要です。小型漁船などでは発電機やインバーターの出力確認が必須です。 -
配線
アンテナからルーターまでは専用ケーブルで接続されます。長さは限られているため、設置位置を事前に決めておくことが重要です。 -
ネットワーク分配
クルーズ船や大型船では、スターリンクの回線をLANケーブルやWi-Fiアクセスポイントで全船内に分配します。業務用と乗客用でネットワークを分けるのが一般的です。 -
バックアップ電源
船舶は停電リスクもあるため、UPS(無停電電源装置)を併用して通信を維持できる仕組みを導入するのが望ましいです。
これらの準備を整えることで、海上でも安定してインターネットを利用できる環境が整います。
海上特有の電波環境での注意点
スターリンクは革新的なサービスですが、海上では独自の注意点があります。
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天候の影響
大雨や豪雪では速度低下や一時的な通信障害が起こる可能性があります。とはいえ、従来のVSATよりは安定性が高いと評価されています。 -
極地での利用制限
北極・南極では衛星カバー範囲がまだ不十分で、接続が途切れる場合があります。今後の衛星追加で改善予定です。 -
データ使用量の制御
船上では多人数が同時に利用するため、動画視聴などで帯域を圧迫する可能性があります。利用者ごとに制限をかける「帯域制御システム」の導入が推奨されます。 -
航行ルートの事前確認
特定の海域ではサービス提供が限定的な場合もあるため、導入前にスターリンクのカバレッジマップを確認することが重要です。
これらを踏まえて運用計画を立てれば、トラブルを最小限に抑えることができます。
導入時に活用できる補助金や助成制度
スターリンク船舶プランは高額な初期投資が必要ですが、場合によっては補助金や助成制度を活用できる可能性があります。
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漁業関連助成金
漁船のIoT化や漁業効率化を目的とした補助金で、通信設備導入が対象になる場合があります。 -
国土交通省の船舶安全関連支援
船舶の安全航行や災害対応のための通信機器導入に助成が出るケースがあります。 -
地方自治体のデジタル化支援制度
地方の観光船やフェリー事業者に対して、ICT導入補助が用意される場合があります。
補助金は年度ごとに内容が変わるため、導入を検討する際は代理店や行政機関に相談するのが賢明です。補助金を活用できれば、初期投資を大幅に抑えて導入が可能になります。
クルーズ船での導入事例と乗客の反応
クルーズ業界では、スターリンク・マリタイムの導入が急速に進んでいます。特に2023年以降、大手クルーズ会社が続々と採用を発表し、2025年時点では多くの船がすでに運用しています。
従来のVSAT通信では、速度は数Mbps程度で、SNS更新ですら数十秒待たされる状況でした。そのうえ利用料金も高額で、乗客からは「Wi-Fiが不便」という不満が多く寄せられていました。
スターリンク導入後は、下り最大250Mbpsという高速通信が可能になり、乗客は動画視聴やSNS投稿、家族とのビデオ通話を快適に楽しめるようになりました。ある乗客は「船の上でNetflixが止まらず見られるなんて驚き」と感想を述べています。
さらに、クルーズ会社にとっては顧客満足度が向上するだけでなく、「海上でも仕事ができる環境」を提供できるため、リモートワーカー層の新規顧客獲得にもつながっています。
スターリンクは単なる通信手段にとどまらず、クルーズ旅行の付加価値を高める重要な要素となっているのです。
漁業船での運用と収益改善効果
漁業の現場では、スターリンク導入による効果が非常に大きいと評価されています。
従来は陸に戻ってからしか確認できなかった市場価格や気象情報が、海上でもリアルタイムに取得できるようになったからです。
たとえば、ある遠洋漁業船では、漁獲データをリアルタイムでクラウドに送信し、陸上の本部と情報を共有しています。
これにより、水揚げした魚をどの港に卸すかを即座に判断でき、収益性が向上しました。
また、気象庁や国際的な気象データを常時受信できるため、危険な気象条件を事前に察知し、航行ルートを変更できるようになりました。
これにより安全性が高まり、事故リスクの低減にもつながっています。
漁業は自然条件に大きく左右される産業ですが、スターリンクの導入は「データを活用した効率的な漁業」を可能にし、漁師の働き方を変える存在になりつつあります。
貨物船での通信改善と安全性向上
貨物船では、航行中に陸上と安定して通信できることが物流効率や安全性に直結します。
従来は通信速度が遅いため、積荷データの送信に時間がかかり、トラブル時の情報共有にも遅れが生じていました。
スターリンク導入後は、積荷の温度や湿度などをセンサーで常時モニタリングし、そのデータをクラウドにアップロードして陸上の管理拠点と共有できるようになりました。
特に冷凍食品や医薬品など、品質管理が重要な貨物においては大きな安心材料となっています。
さらに、航行中の安全面でも大きな効果があります。船員がリアルタイムで気象情報や海難事故の情報を得られるため、危険な航路を回避する判断が迅速にできるようになりました。
物流業界では「通信の質が安全性を左右する」と言われています。スターリンクはまさにその課題を解決し、国際物流の安定と効率化を支えるインフラとなりつつあります。
災害救援船での活用事例
2024年の能登半島地震や世界各地の洪水災害では、スターリンクを搭載した救援船が活躍しました。
陸上の通信インフラが途絶した状況でも、船から衛星を通じて情報を発信できたため、被災地支援の初動がスムーズに行えたのです。
ある救援団体の報告では、スターリンクを使って避難所の様子をライブ配信し、遠隔地の支援本部と連携できたとされています。また、被災者が船上のWi-Fiを利用して家族に安否を伝えることも可能でした。
従来の通信手段では、大規模災害時には通信が混雑し、情報伝達が滞ることが多々ありました。
スターリンクはその課題を克服し、災害時の「命をつなぐ通信手段」として有効性を証明しました。今後も各国政府や国際支援団体での導入が進むと見込まれています。
導入後にわかったメリットとデメリット
スターリンク船舶プランは多くのメリットをもたらしていますが、実際に利用した企業や船員からは「注意すべき点」も報告されています。
メリット
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VSATに比べて圧倒的に安価で高速
-
クルーや乗客の満足度が向上
-
業務効率や安全性が改善
-
災害時の通信手段として有効
デメリット
-
月額料金が依然として高額(数十万円規模)
-
豪雨や嵐で一時的に通信が不安定になる場合あり
-
北極や南極などの極地では未対応エリアが残る
-
データ使用量が多いと速度制御がかかることがある
つまり、スターリンクは万能ではないものの、従来の船舶通信に比べれば飛躍的な進化をもたらしており、課題を理解した上で運用すれば非常に有用な通信手段と言えるでしょう。
まとめ
スターリンク船舶プランは、従来のVSATに代わる次世代の船舶通信インフラとして、世界中で急速に普及しています。
クルーズ船の乗客満足度向上、漁業・物流の効率化、災害時の通信確保など、あらゆる場面でその強みが発揮されているのが特徴です。
料金は月額35万円〜50万円と決して安くはありませんが、従来のVSATと比較すれば圧倒的にコストパフォーマンスが高く、船舶通信の常識を変える存在です。
今後、衛星数の増加に伴い、さらに安定性とカバー範囲が拡大していくことが期待されます。
スターリンクは、海の上でも「地上と変わらない通信環境」を提供し、船舶の安全性と利便性を大きく向上させる革新的なサービスと言えるでしょう。